1項 体育授業をめぐる相互作用に関する研究
これまでの体育授業における相互作用研究は,授業中の教師と生徒(及び生徒集団)間で営まれるものに関心が向けられてきた。例えば,高橋ら(1989,1996,1997)は,相互作用を「教師と生徒(及び生徒集団)との間で営まれる人間的・教育的交流」と捉えて,「適切な行動に対する賞賛」「不適切な行動に対する叱責」「フィードバックを与えること」「批評」「発問」「生徒の思考や感情の授与」などに整理する。その上で,肯定的な相互作用行動を教師が積極的に展開すれば,児童・生徒の授業評価が高まることを報告している。また,具体的な行動にフォーカスがあてられたものとしてフィードバック研究(深見ら,1997,2015;深見・高橋,2003)や教師による言葉かけの研究(長谷川,2004;江藤,2015)がなされてきた。これらは,子どもの受け止め方や動機づけ,授業評価との関係が検討され,効果的な指導法として明らかにされている。さらに上原・梅野(2000,2003,2007)は,優れた教師の言語的相互作用に着目し,技能を高める言語的相互作用には「児童の課題(めあて)」が教師に理解される必要があると指摘している。このように,教師-子どもの相互作用研究は,「知識」や「技能」の定着を図る教授法の1つと認識されており,高橋(2008)が指摘するように問題の関心がその「効果」にあったと言える。
一方で数は少ないものの,子ども-子どもの関係性に着目する研究もなされている。例えば栗田ら(2007)は,バスケットボールの単元で情報掲示板を用いて子ども同士の相互作用を促すことで技能向上に役立つことを示唆している。また柴田ら(2012)は,器械運動の単元に子ども達の相互作用を促すような教師からの声かけと付箋を用いて相互評価をする活動を取り入れることで,多くの子ども達が何らかのフィードバックを得ることができ,運動技能の上達を感じることができたという。このように,子ども-子どもの相互行為研究においても,その問題関心は「知識」や「技能」の定着を図るための教授法として捉えられており,その有効性に関心が集まっていると言えよう。
平成29年3月に告示された小学校・中学習指導要領解説(体育編・保健体育編)の改訂の経緯にも示されているように,これからの社会は予測困難な時代を迎える。そのような時代においては,多様な他者と相互行為しながら新たな価値を創り出すような能力が求められると言われている。教師-子ども,あるいは子ども-子どもの相互行為のいずれも重要であることは変わりないが,グローバル化の流れの中で,「〇〇をする事は当たり前」といった暗黙の了解が成立しにくくなる今,改めて体育授業における相互行為のあり方について検討する必要がある。